古く、いすの漢字表記は「倚子」で、「いし(「し」は漢音)」と呼ばれていた。
倚子の「倚」の漢字は「よりかかる」という意味があり、「子」は「帽子」や「冊子」などと同じく、物の名に添えられる接尾語である。
禅宗の伝来以後、「倚子」は「椅子」と表記されるようになり、「子」を唐音読みして「いす」と呼ばれるようになった。
「椅」の漢字は「よりかかる木」という意味で、「倚」と「椅」の意味と大差はない。
禅宗の渡来以前、椅子は宮中の高官だけが使用するものであったが、渡来後は、禅僧が説教する際に用いる腰掛けを指すようになった。
近世以降は、椅子が西洋の習慣と考えられ、多くは西洋風の建物で用いられた。
一般家庭に洋間が取り入れられるようになってからは、多くの場所で椅子が用いられるようになった。
「社長の椅子」や「大臣の椅子」など、特別な地位を表す言葉として「椅子」が用いられるのは、「いし」と呼ばれていた時代から、西洋文化が入るまでの長い間、特別な人が使用するものとされていた名残と考えられている。