動詞の「物語る」が中世以降に見られる語であるのに対し、「かたる」の名詞形「かたり」が奈良時代以前には成立していたことから、物語は「物語る」の名詞形ではなく、「かたる」の名詞形「かたり」に「もの」を付けて、ある種の語りを区別するために生まれた表現と考えられる。
『古事記』には「ことのかたりごと」という断りの箇所があることから、「ものがたり」と「ことのかたりごと」は異なるジャンルであったといわれる。
「こと(事)」は出来事や事件など、対象がある特定の事柄について用いられるのに対し、「もの(物)」は対象を漠然的にいう際に用いられるため、「物語」は特定の狭い範囲の事柄を対象とした話ではなかったと考えられる。
また、「もの」は「鬼」や「霊」など不思議な霊力を持つものをいう言葉であったことから、もとは現実からかけ離れた世界を語るという意味で「物語」の語が生まれたとも考えられる。